東京高等裁判所 昭和28年(ネ)11号 判決
控訴代理人は原判決中原告(控訴人)その余の請求を棄却する旨の部分を取消す、被控訴人等は各自控訴人に対し金四万円及び之に対する昭和二十五年二月十日から完済に至る迄年六分の割合の金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は先ず本件控訴を却下するとの判決を求め、次に本案につき本件控訴を棄却するとの判決を求めた。
被控訴代理人は本件控訴を却下する旨の判決を求める理由として、本件控訴は法定の控訴期間経過後に提起された不適法のものである。即ち原判決正本は昭和二十七年十二月四日原告(当審の控訴人)の代理人河村範男弁護士の事務所たる東京都千代田区神田鎌倉町六番地に送達され同日の午後一時二十分に同居人なる山下卯吉によつて受領されたのであるから原判決に対する法定の控訴期間は同月十八日迄となるところ、本件控訴状が提起されたのは昭和二十八年一月五日であるから右控訴は右期間経過後に提起されたことが明らかである。而して後記被控訴人が主張するように河村弁護士が右原判決正本送達当時既にその事務所を他へ移転していたとしても、民事訴訟法は訴訟当事者に対し送達を受けるべき場所を受訴裁判所に届出る義務を課していること同法第百七十条上明らかであり、もし送達を受けるべき場所を変更した場合にはその当事者は之をも受訴裁判所に届出るべきことは勿論であつて、当事者がこの届出義務を懈怠した場合には自らその懈怠による手続上の瑕疵を主張することは許されないものと解すべきであり、本件に於ても河村弁護士がその事務所の変更を原裁判所に届出た事跡を認め得ない以上控訴人は右判決正本の送達が無効であるとの主張はなし得ないものと言わなければならない。又本件訴状の原告代理人等の肩書地として東京都武蔵野市吉祥寺七五三番地とのみ表示してあるにすぎないとしても、原審の昭和二十七年八月六日附証拠決定書は同月九日東京都千代田区神田鎌倉町六番地に送達され河村弁護士の同居人竹谷勇四郎に於て之を受領した事実があるのみならず、同所に於て昭和二十七年十二月四日に原判決正本を受領した同居人山下卯吉は弁護士であつて、当時十分事理を弁識すべき能力を具えていたことは明らかであつて、而も同弁護士は河村弁護士と右送達の場所に於て事務所を共にしていた関係にあり、このような事実関係の下にある右山下弁護士は河村弁護士の為その訴訟書類の送達を受ける権限を有したものと解すべきであつて、同弁護士が前記の通り異議なく原判決正本を前記の場所に於て受領した以上右送達は有効なものと言うべきであり、控訴人主張のように河村弁護士がその所属の弁護士会だけに対しその事務所の変更の届出を了したと否とは之を問うべきではない。と述べ、
之に対し控訴代理人は、本訴は弁護士小玉治行、河村範男の両名が原告(当審に於ける控訴人)の訴訟代理人となつて提起したものであるが、その訴状に両弁護士の肩書住居として東京都武蔵野市吉祥寺七五三番地のみを表示し小玉弁護士は右住居以外に事務所を有せず、又河村弁護士は当時東京都千代田区神田鎌倉町六番地再生ビル弁護士清原邦一法律事務所内に事務所を置いていたが、右訴状には之を表示せず、専ら訴状に記載された前記の場所を以て本訴に関する書類送達の場所としていたことが明らかである。他方河村弁護士は昭和二十七年三月八日清原邦一弁護士が法務府刑政長官に就任し同事務所が山下卯吉弁護士の承継するところとなつたと同時に東京都港区麻布笄町九番地の自宅にその事務所を変更し唯清原事務所の残務整理の為時々山下卯吉事務所に赴いていたが右残務整理も終了したので同年十一月十八日右自宅を事務所とした旨所属弁護士会たる第二東京弁護士会に届出手続を了し爾後山下事務所に於ては全く執務せず自宅に於てのみ執務するに至つた。而して河村弁護士は親族の結婚式の為同年十二月四日東京を出発して福岡県に旅行し同月十日帰京し同月二十三日右山下事務所に遊びに赴いたところ、同事務所にいた弁護士竹谷勇四郎から同日午後二時頃執行吏から原判決正本の送達があつた旨告げられて右判決正本の交付を受け、その後小玉弁護士と協議の上控訴することとし昭和二十八年一月五日本件控訴状を提出したのである。従つて被控訴人主張のように昭和二十七年十二月四日に原判決正本が河村弁護士に送達されたことはなく、仮に同日右正本が右山下事務所に送達されたとしても、当時原告代理人等の事務所が右山下事務所になかつたこと前記の通りであるから右送達は無効のものであり、本件控訴は結局原判決送達前になされたものであつて適法のものである。と述べた。
本案につき当事者双方の事実上の主張は控訴代理人に於て、控訴人は請求原因一、の事実中に摘示したイ及びロの各手形を夫々その満期日に支払場所に呈示して支払を求めたところ拒絶せられたと述べ、被控訴代理人に於て右事実を認めると述べた外原判決事実摘示と同一であるから之を引用する。
<立証省略>
三、理 由
本件控訴が法定の控訴期間内に提起されたものであるか否かにつき審案するに、本件記録中に存する東京地方裁判所執行吏山内伴治代理竹中出の昭和二十七年十二月四日附送達報告書と当審証人竹中出の証言とによれば、原判決正本は河村範男宛に昭和二十七年十二月四日午後一時二十分東京都千代田区神田鎌倉町六番地に右執行吏代理竹中出によつて送達され同居人山下卯吉に於て之を受領したことを認めることができ、本件にあらわれたすべての資料によつてもこの認定を動かすに足りない。然るに成立に争のない甲第五及び第八号証、当審証人山下卯吉の証言と控訴代理人河村範男審訊の結果とに徴すれば第一審原告(控訴人)の訴訟代理人河村範男弁護士はもとその住所を東京都武蔵野市吉祥寺七百五十三番地に置くと共に東京都千代田区神田鎌倉町六番地弁護士清原邦一事務所内に事務所を置いて執務していたが、本訴提起後なる昭和二十六年二月二十七日に右吉祥寺七百五十三番地から東京都港区麻布笄町九番地に住所を移転し、爾来自宅及び右鎌倉町六番地の事務所に於て執務し更に昭和二十七年三月清原弁護士が弁護士をやめ、その事務所を弁護士山下卯吉が引継ぐや、之と同時に河村弁護士も同所にあつたその事務所を前記麻布笄町九番地の自宅に移し、爾後専ら自宅に於て執務することとなり、同年十一月十八日所属弁護士会なる第二東京弁護士会にも右事務所変更届をしたこと、而して河村弁護士は前記原判決送達の日たる十二月四日には鎌倉町六番地の旧事務所には赴かず、同日から九州へ旅行し同月十四日頃帰京した上同月二十三日右旧事務所に行き同所に事務所を有していた弁護士竹谷勇四郎から同日受領した旨告げられて初めて原判決正本を受領したことを認めることができる。而して被控訴人も主張するように訴訟当事者が受訴裁判所に届出た送達を受くべき場所を変更したときは之をも受訴裁判所に届出るべき義務があり、之を懈怠した為書類が従前の場所に送達された場合懈怠者はその無効を主張し得ないものと解すべきであるとしても、記録に徴するに、本件訴状には原告(控訴人)の訴訟代理人小玉治行及び河村範男両名の肩書地として前記東京都武蔵野市吉祥寺七五三番地と表示してあるだけであることが認められ、原告又は右代理人等から前記鎌倉町六番地を送達を受くべき場所として原裁判所に届出た事跡は之を認め難いから河村弁護士がその事務所を鎌倉町六番地から麻布笄町九番地の自宅に変更したことを受訴裁判所に届出なくてもこの点については同弁護士に右懈怠の責あるものとなし難く、十二月四日の前記送達当時すでに同弁護士の事務所が右鎌倉町六番地になかつた以上、右送達は同弁護士に対して有効になされたものと解することはできない。然らば原判決に対する控訴人の為の控訴期間は河村弁護士が原判決正本を受領した昭和二十七年十二月二十三日の翌日より起算すべきであり、本件控訴提起の日であること記録上明らかな昭和二十八年一月五日が右期間内であること勿論であるから、本件控訴は法定の控訴期間内になされた適法のものと言うべく、右控訴が法定の期間経過後になされたものとしてその却下を求める被控訴人の主張は之を認容することができない。
本案につき審案するに、
控訴人の請求原因一、の事実は被控訴人等の認めるところである。
被控訴人等の抗弁につき審案するに、当裁判所は原判決の認定した通り被控訴人等主張の青表三百五十六本の売買契約が原判決認定の経過を経て被控訴会社と控訴人との間に成立し、右売買代金百四万円の支払の為請求原因一、の事実中に摘示されたイ及びロの各約束手形が振出され、受取人吉田忠夫の裏書により控訴人に譲渡されたものであること、然るに右売買の目的物たる青表の引渡が全然履行されなかつた為当事者間にその善後措置につき折衝が行われた結果昭和二十五年三月十日頃控訴組合の代理人たる谷口三郎と被控訴人等との間に右手形債務をも含めて被控訴会社の控訴人に対する債務を金百六十一万二千四百円とし、その弁済方法として被控訴会社は更に控訴人から出荷を受けてその販売に当り、之れによつて得られる利益金を以て逐次右弁済に当て、昭和二十六年三月末日迄に完済すべく、又被控訴会社は控訴人に対し右出荷準備金として金二十万円を提供すべき旨の契約が成立したこと等の事実を認定した。而して右認定の理由は当審に於て本件にあらわれたすべての資料によつても右認定を動かすに足りないと言うことを附加する外、原判決理由中に説示されたところと同一であるから右原判決の説示するところを引用する。然るに原審証人谷口三郎の証言(第一、二回)及び原審及び当審に於ける被控訴人滝本時重本人並びに原審に於ける被控訴会社代表者野村貞之本人各訊問の結果によれば、被控訴会社は右三月十日頃成立した契約に従い同月十七日頃契約所定の出荷準備金として金二十万円から谷口三郎の立替支払つた金五万円を差引き残金十五万円を控訴人に送金したに拘らず、控訴人は之に対し一車分百九十八本の畳表を被控訴会社に送り、その代金全額の決済が完了されただけであつて、その以外に控訴人が右契約所定の期間が過ぎても全然約定の出荷をしていないことを認めることができ、右認定を動かすに足る証拠及び被控訴会社が右送荷を受けた百九十八本の畳表の取引により何等かの利得を得たことを認めるに足る証拠はない。而して前記売買契約の目的物たる青表の引渡がなされなかつた為本来被控訴人等に於てその代金従つて前記手形金の支払を拒絶し得べきであつたと解すべきところ、当事者折衝の結果その弁済方法に関する右契約が締結せられたのであるから、控訴人に於て右認定の通り契約通りの出荷をしない以上、叙上認定の右契約締結の経緯に鑑み、被控訴人等は右青表の代金従つて本件約束手形金の支払を拒絶し得るものと解すべきことは勿論であり、而して被控訴人等が原判決事実中に摘示された抗弁一の(2) として主張するところは、畢竟控訴人が被控訴会社に対し前記契約に基く出荷をしないことを理由として本件約束手形金の支払を拒絶する趣旨をも包含しているものと認められるから、その趣旨に於ける右抗弁はその理由あるものとして之を認容しなければならない。
然らば原判決中前記イ及びロの各手形金につき被控訴人にその支払義務がないものとしてその支払請求を排斥した部分は結局相当であつて、その取消を求める本件控訴は理由のないものであるから、民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条、第九十五条を適用して主文の通り判決した。
(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)